マウスより造血幹細胞を採取し、LIF(leukemia inhibitory factor)を添加して一週間ex vivoで培養した。そのin vitro培養細胞を放射線照射したCD45.1バックグラウンドのRAG欠損マウスに移植することによりin vivoでのT細胞への分化能を評価したところ、LIFにはT細胞への分化能をex vivoで長期間維持する作用があることが示された。そこで、次にST2ストローマ細胞にNotchリガンドであるDLL1遺伝子を導入し、Zuniga-Pfluckerらの方法に従って、LIFで培養した造血幹細胞をストローマ上で培養してin vitroでのT細胞の分化誘導実験を試みた。in vitroでのT細胞(thy1陽性細胞)の分化を誘導することはできなかったが、ST2-DLL1と共に培養した造血幹細胞はin vivoでの再構成実験系では非常に効率よく胸腺細胞を再構築した。当初の実験計画のようにin vitroで造血幹細胞の分化を誘導することはできなかったが、in vivoにおいてはLIFが造血幹細胞のT細胞への分化を増強することが明らかとなり、本研究の結果は、患者本人の造血幹細胞を長期間ex vivoでLIFと共に培養して患者へと戻すことによって患者の体内でT細胞数を増加させるような治療法の開発に応用できることが明らかとなった。このようなT細胞増強療法は、がん細胞の免疫学的治療における重要な一歩となるものと考えられる。
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