平成18年度の研究進捗状況であるが3つのDNA損傷で誘導される転写因子(ATF4、YB-1、ZNF143)について進展が見られた。 概日リズム転写因子であるClockとATF4の転写制御系が酸化ストレスの防御システムとして重要なグルタチオン合成に関与することを示し報告した。このシステムがDNA損傷シグナルを誘導する抗がん剤のみならず、多くの薬剤の感受性を規定することを明らかにした。このことは、人間の日内活動において発生する活性酸素に対する防御システムと概日リズムが密接に関わることを示すもので興味深い。また、薬剤のグルタチオン抱合が概日リズム制御を受けることに関連して、時間薬理学や治療学の面からも重要と考えている。Clockはヒストンアセチル化酵素活性を持ち、クロマチンリモデリングが概日リズムで制御されることを示したものとも言える。 YB-1については、Aktによるリン酸化と核内移行および標的遺伝子発現やリンパ球でのABCトランスポーター発現について報告した。特にYB-1ノックアウトマウスの解析からYB-1は個体発生過程における神経管形成に重要な分子で胎生致死であることを報告した。さらに、細胞レベルでは増殖や老化に関わることも示した。 ZNF143転写因子はシスプラチン耐性に関わるだけでなく、多くのDNA修復遺伝子群を制御するマスター遺伝子の可能性について報告した。その後の解析から、ZNF転写因子は、その特徴的なDNA結合配列と、標的遺伝子からがんやその他の増殖性疾患の創薬ターゲットになりうる可能性が高いと考え、論文報告の前にまず国際特許出願を進めているところである。 抗がん剤の中でも、DNA鎖の切断を起こすDNAトポイソメラーゼ阻害剤がDNA-PKの活性化を介して転写因子Sp1をリン酸化、標的遺伝子の転写を増強することを明らかにした。
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