損傷DNAを認識し、DNA損傷に対する細胞応答にも関わるYB-1研究に関して一定の進展が見られた。乳がんではYB-1の核内発現がHER2とERを制御していることを示した。横紋筋肉腫においては形態上胎児型でのみYB-1の核内発現とP糖蛋白とMajor Vault Protein(MVP)の発現に相関が見られたが、肺胞型では見られず、組織型と同様分子生物学的にも2種に分類できることがわかった。YB-1によるP糖蛋白遺伝子(MDR1)の発現制御にはアセチル化したAPE1との会合がYboxへの結合を増強していることを明らかにした。一方、YB-1の発現はTwistが正に制御していること報告した。Twistの会合分子をGST融合蛋白を用いたメンブレンプルダウン法で解析した。その結果Twistはp53やPDCD4と結合し、その発現を抑制することを報告した。我々は以前、抗がん剤耐性に関わる転写因子の1つに概日リズム制御を担う転写因子Clockの重要性を報告していた。今回はClockの標的遺伝子にヒストンアセチル化酵素のTip60が、DNA修復遺伝子発現を介してシスプラチン耐性化に関与していることを報告した。 酸化ストレスはDNA損傷を惹起し、がん化やがんの悪性化に関わる。抗酸化システムは抗がん剤に対する細胞応答に関与することから、その発現制御研究を進めている。以前グルタチオン合成系がClock/ATF4転写システムに制御されていることを報告した。今回、ペロキシレドキシン(PRDX)ファミリー1〜5の遺伝子発現に関して解析を進めた。PRDX1と5は酸化ストレスで発現誘導するが、その発現が転写因子ETSによることを報告した。またPRDX2の発現が転写因子FOXO3で制御されることを明らかにした。さらに、現在グルタチオン合成系を制御するClock/ATF4転写システムが、一部のPRDXの発現に関与することを見出しており、近々報告予定である。
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