DNA損傷のがん細胞応答に関わる転写関連分子として長年解析してきたYB-1について新しい発見があった。がん細胞での高発現は数多くの報告があるものの、がん間質組織での発現に着目した報告はなかった。今回、がん間質組織に存在する新生血管内皮細胞にYB-1が高発現していること見出した(Cancer Sci.inpress)。すなわち、YB-1はがん細胞からのシグナルに反応して、血管内皮細胞が増殖サイクルに入っていることを示すバイオマーカーとなる可能性を示している。さらにこの事実は、YB-1ががん細胞のみならず、腫瘍血管をも標的にできる新しいタイプの分子標的であることを示唆している。一方転写因子ZNF143の標的遺伝子については、これまでのin silicoのデータとは実際は異なることがわかった。siRNAを用いた細胞周期解析から、発現抑制がG2/M期停止を誘導すること、マイクロアレイ解析から、標的遺伝子の中に多くのDNA合成・複製と細胞周期関連の遺伝子が含まれていることがわかった(現在投稿中)。正常組織と比べ、がん組織で発現が高いことから、ZNF143は、がん細胞増殖のマスター遺伝子の可能性があり、有力な分子標的となると考え特許出願を行った。 概日リズムに関連する転写因子が抗がん剤感受性に関わる分子機序について報告してきたが、今回ヒトがん細胞移植動物研究から、人工照明ストレスが腫瘍増殖と血管・間質新生を誘導することを見出した。その責任分子として、Wnt10Aを同定した。その分子機序として、人工照明ストレスが酸化ストレスを惹起し、Wnt10Aの発現が誘導され、血管内皮細胞と線維芽細胞の増殖を促し、血管新生を含む間質新生ががん細胞の増殖に有利に働くのではないかと考えられた。Wnt10Aが血管・間質新生を標的とした新しい分子標的になる可能性を示唆している(投稿中)。 酸化ストレス応答に関して、リボフラビンキナーゼの役割について解析し、補酵素としてのB2 vitamerの増加とグルタチオンの増加に関わることを明らかにした(投稿中)。
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