染色体の末端構造であるテロメアはゲノムの複製・安定化に不可欠であり、ヒト正常体細胞におけるテロメアの短縮は"分裂時計"として癌抑制機構の一翼を担う。テロメア合成酵素であるテロメラーゼの活性化は癌細胞の無限増殖能の根拠となる。テロメラーゼ阻害剤は、癌細胞のテロメアを徐々に短縮させ、細胞の老化と死(アポトーシス)を誘導することから、新たな癌分子標的薬剤としての応用性が期待されている。我々はテロメラーゼ阻害剤の効果増強を目指し、テロメラーゼのテロメア会合制御因子であるポリ(ADP-リボシル)化酵素(PARP)、タンキラーゼ1に着目した。まず、我々はタンキラーゼ1の機能亢進もしくはテロメア短縮そのものがテロメラーゼ阻害剤の耐性因子となることを見出した。更に、タンキラーゼ1の機能を抑制する複数のPARP阻害剤を同定し、これらが培養細胞レベルにおいて上記テロメラーゼ阻害剤耐性を克服することを示した。これらのPARP阻害剤は合成テロメラーゼ阻害剤MST-312のテロメア短縮効果を増強することにより、MST-312による癌細胞の老化・アポトーシスをより早期に誘導した。二剤併用によってクライシスを起こした細胞群では、テロメアDNAを検出限界以下まで消失した染色体末端が高頻度で検出された。一方、動物レベルにおいては、ヌードマウスの皮下に移植したヒト乳癌細胞の腫瘍増殖がMST-312の尾静脈内投与により抑制されることが明らかになった。また、様々な臓器腫瘍に由来するヒト癌細胞パネル39株について、テロメア長・テロメラーゼ活性・テロメア動態制御因子の発現を数値定量化した。現在、テロメラーゼ阻害剤が奏効し易い癌細胞の特徴を明らかにすべく、準備検討を進めている。
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