分子標的治療薬開発研究のために、細胞を用いたシグナル伝達阻害剤評価系を確立し、探索を行い、活性物質の作用機作を解析している。昨年に引き続き、活性物質として得られたhypothemycin(HPM)の作用を解析した。NRK細胞をPDGF刺激し、活性化されるPI3K経路及びMEK-ERK経路への影響を調べた。HPMはPDGFR自己リン酸化を強く阻害したが、PI3K経路のAKT、S6Rに対する影響はPDGFRに比べはるかに弱かった。それに対しMAPK経路のERK、p90RSKの活性化はPDGFRと同程度に阻害された。以上からHPMは細胞内では選択的にMEK-ERK経路を阻害していること、また、HPMはPDGFRに加えMEK、ERK、p90RSKも不活性化するため、同一経路上を複数箇所で遮断すると有効であることが確認された。またHT29などBRAFに活性化変異(V600E)があるがん細胞がHPMに対して高感受性であり、足場非依存性増殖が強く抑制される分子機構を解析した。その結果、BH3-onlyproteinのBimELのレベルが上昇したことから、MEK-ERK経路阻害に起因するBimEL蛋白量の増加が原因であると考えられた。一方、anicequol(ANC)のDLD-1に対するanoikis誘導活性について、細胞死シグナルに関与する因子の同定を試みた。その結果、ANC処理細胞において、p38MAPKの活性化がおきていること、さらに、p38MAPKの下流因子であるATF-2およびHSP27についても同様の活性化が起きていることが分かった。また、他の大腸がん細胞HT-29及びWiDrについてもANCが同様のanoikis誘導活性をもつことを見出した。この結果は、大腸がん細胞特異的な機構がANCのがん細胞に対するanoikis誘導活性に関与することを示唆しており分子機構の解明を進めている。
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