研究概要 |
有効かつ安全ながんの遺伝子治療法の実現に向けて、アテロコラーゲン・デリバリーシステムによる生体内遺伝子発現制御法を開発した。この方法はバイオマテリアルの一種であるアテロコラーゲンをキャリアとして種々の治療用外来遺伝子ベクターや核酸医薬を生体内で徐放し、ヌクレアーゼによる生体内分解から核酸を保護することで、遺伝子ベクターの欠点であった生体内での非制御性を改善し、ベクターの能力を最大限に発揮させうる画期的な方法である。本研究では、アテロコラーゲン包埋法の応用として、遺伝子機能を特異的且つ高い効率で抑制可能なsiRNAのがん治療への応用の道を開く前立腺がんや乳がんにおける全身性の骨転移に対するsiRNAによる治療法の開発を試みた。我々が用いた方策はルシフェラーゼを発現するヒト前立腺がん細胞正PC-3Mを用いた骨転移モデルを用意し、リシフェラーゼを特異的に抑制するsiRNAをアテロコラーゲン複合体として尾静脈から全身投与し,そのマウスをバイオフォトニクスによるin vivoイメージングで解析することにより,骨転移巣でのルシフェラーゼの発光量を定量し、デリバリー効率と抑制効果を同時に判定するものである。その結果,siRNA単独投与では全身の骨転移巣でのルシフェラーゼ量はせいぜい20%程度の抑制であったのに対し,siRNA/アテロコラーゲン複合体投与マウスでは90%以上の絶大な抑制効果が認められた。またこれらの複合体を投与されたマウスでは毒性は認められなかった。しかし、複合体投与の際の動物の生体反応やより詳細な遺伝子発現の変化等をさらに慎重に検討する必要がある。我々の予備的な知見では,アテロコラーゲンによるsiRNAのデリバリーシステムは、動物の脳内や骨髄内までsiRNAをデリバリーしうることを確認しており,今後,前立腺がんや乳がんの標的遺伝子に対するsiRNAの効果を我々の系で評価することにより,siRNAの核酸医薬品としての利用価値が確立すれば、がん治療をはじめとした様々な疾病治療への応用が期待できる。
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