研究概要 |
有効かつ安全ながんの遺伝子・核酸医薬による治療法の実現に向けて,アテロコラーゲン、デリバリーシステムによる生体内遺伝子発現制御法を開発した。この方法はバイオマテリアルの一種であるアテロコラーゲンをキャリアとして種々の治療用外来遺伝子ベクターや核酸医薬を生体内で徐放し,ヌクレアーゼによる生体内分解から核酸を保護することで,遺伝子ベクターの欠点であった生体内での非制御性を改善し,ベクターの能力を最大限に発揮させうる画期的な方法である。本年度は,このデリバリー技術を用いて,RNA干渉を利用したがん治療の戦略の実現に向けて,ヒト乳がん細胞や前立腺がん細胞の転移モデルを用いて,siRNAやmicroRNAの転移がん病巣への集積を検討した。まず,ルシフェラーゼを発表するヒト乳がんのリンパ節転移モデルを用いて,アテロコラーゲンとアンチ・ルシフェラーゼsiRNAの複合体を全身性に投与することで,乳房組織に移植したがん組織に効率よく導入され,なおかつルシフェラーゼの発現を80%以上も抑制した。また,前立腺がん細胞に,microRNA16の標的特異的配列であるBcl2遺伝子の3'UTR配列を結合させたルシフェラーゼのコンストラクトを組み込み,その細胞を用いて昨年度までに樹立した骨転移モデルを作成した。この動物に,アテロコラーゲンと複合体を形成させたmicroRNA16を尾静脈から導入した結果,大腿骨などのがん転移部位のルシフェラーゼの発現が60%以上も抑制された。以上の研究成果は,アテロコラーゲンのデリバリー技術は,siRNAのみならず,microRNAをも,全身の腫瘍部位に導入するために有効な方法であることを強く示唆するものである。今後は,これらのモデル系を用いて,ヒト乳がん細胞や前立腺がん細胞の転移抑制に有効なsiRNA,microRNAを用して,治療応用の基礎検討を行う予定である。
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