研究概要 |
有効かつ安全ながんの遺伝子・核酸医薬による治療法の実現に向けて、アテロコラーゲン・デリバリーシステムによる生体内遺伝子発現制御法を開発した。この方法はバイオマテリアルの一種であるアテロコラーゲンをキャリアとして種々の治療用外来遺伝子ベクターや核酸医薬を生体内で徐放し、ヌクレアーゼによる生体内分解から核酸を保護することで、遺伝子ベクターの欠点であった生体内での非制御性を改善し、ベクターの能力を最大限に発揮させうる画期的な方法である。本年度は,このデリバリー技術を用いて,RNA干渉を利用したがん治療の戦略の実現に向けて,ヒト乳がん細胞や前立腺がん細胞の転移モデルを用いて、siRNAやmicroRNAの転移がん病巣への集積を検討した。その結果を主にmicroRNAで評価した場合、microRNAは腫瘍部位に到達してから、7日間ほど安定に存在していることが明らかとなった。microRNAの種類を、ヒト前立腺がんで発現が減少しているmicroRNA16を用い、動物への移植腫瘍を同じヒト前立腺がん細胞にした場合、腫瘍の増殖を顕著に抑制した。このアテロコラーゲンとmicroRNAの複合体は、siRNAの場合と同様に、細胞に取り込まれやすいナノサイズの粒子径であることが予測され、やはり生体内でのmicroRNAの安定性に大きく寄与しているものと考えられた。この複合体を投与された動物個体の副作用を観察したが、肝臓への毒性は皆無であった。さらに動物の体重減少等、目立った毒性は認められなかった。以上の結果より、アテロコラーゲンを応用したmicroRNAの生体内デリバリーは、microRNAの安定性を確保し、腫瘍部位に目的の核酸医薬を運搬する目的に有用であり、microRNAとの複合体の毒性は動物に観察されなかった。
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