研究課題
ゲノムや遺伝子を操作した結果得られる変異体の表現型が、野生型の表現型と比べてどのように変化しているかを判断する作業は、研究者の主観に委ねられることが多い。微小な変化を同定することは難しく、同定できたとしても、他の変化とどれだけ類似しているか否かを判断することは主観的になりがちであり、研究者の経験に左右される。さらに進んで変化の類似性に基づいて表現型をグループ分けしたとしても、類似性の精度が低いと、そのグループがどのような機能を表現しているかについて正しい結論を導くことは困難になる。したがって、表現型を精密に定量化する視点が大切である。このような動機から、本研究では、遺伝子操作によって引き起こされる変異体の表現型を定量化することを研究した。翅脈認識アルゴリズムの精度は、モデルの形状が変異体画像群とどれだけ近いかどうかに依存する。モデルからかけ離れた形状の変異体にモデルをあてはめることは所詮難しい。それでは、今回利用したモデルを使って、一体どれぐらいの変異体の翅脈画像を正確に認識できたか?遺伝子を過剰発現させた変異体5000個の翅脈画像(833x622pixels)を認識させたところ96.2%はモデルにあてはまる翅脈パターンをしており、高い認識精度を達成した。定量化した表現型と遺伝子型の相関をより正確に描出するには、遺伝子型の測定も高精度であることが必要となる。そこで超高速DNA解読装置(Illumina GA, ABI SOLiD)を活用して、転写開始点の網羅的収集、トランスクリプトーム全体の絶対定量化、全長cDNA配列の廉価で高速な決定法、ヌクレオソーム構造の描出等についても取り組んだ。とくにDNA配列の多様性は、生殖細胞における遺伝子の働きやクロマチン構造を反映しているのであろうか?という疑問に答えるため、2系統のメダカ(Oryzias latipesのHd-rRとHNI系統)のゲノム配列を比較し多様性を描出した。さらにHd-rR系統の胞胚からIllumina GAにより得た約3730万個のヌクレオソームコアのゲノム上の位置を同定し、6段階の胚形成期における代表的な転写開始点11,654箇所周辺で分析した。その結果、転写開始点下流において、DNA変異率が約200塩基対(bp)の周期で変化することを観察し、Science誌に報告した。
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