研究概要 |
質量分析を用いたパスウェイの動態定量を行うため,サンプルの質量分析計への導入と,クロマトグラフィの再現性を高める技術開発を前年度までに行い,検出されたペプチドイオンの強度比から相対定量を行う方法をDQN法(Direct Quantitation of Non-labeled proteome)と名付けた。今年度は,このDQN法を自動化し,システムの評価を行った。クロマトグラフィとサンプルの同定結果の再現性の評価のため,4回の繰り返し解析を,多重パラメトリック検定で行い各データの再現性が極めて高く,ベイトが異なる場合の各特異的な相互作用が極めて低い危険率でほぼ自動的に抽出可能であることを確認した。 そこで,当初計画で掲げた課題である古典的MAPキナーゼカスケードの動態解析に追加し,神経細胞でのカルシウムシグナルに関わる分子もbaitとして用いパスウェイの解析を行った。具体的にはCa2+依存的キナーゼであるCaMKのサブファミリー全てを用い網羅的なネットワーク解析を行った。その結果,CaKIが小分子量Gタンパク質であるbeta-PIXと相互作用しリン酸化し活性化していることを明らかにした。beta-PIXはGTP交換因子であるRacとそれにより制御されるキナーゼであるPAKらと共にsignalosomeを形成している。活性化したbeta-PIXはRacを介してSAKを活性化し,PAKは細胞骨格であるミオシンを制御するMLCをリン酸化し細胞骨格のダイナミクスに変化を与え,神経突起の形成を引き起こすことが明らかとなった。さらにCaMKIはやはりカルシウム依存的キナーゼであるCaMKKにより活性化されることも明らかにした。CaMKKは神経活動によってNMDA受容体などを介して流入するカルシウムイオンによって活性化する。従って神経活動によりダイナミズムが変化する神経突起形成されるが,その新規で重要なパスウェイの全貌を明らかにすることに成功した(Neuron 57,94-107,2008)。従って,我々が開発してきた手法が,既知のパスウェイの動態を定量することにとどまらず,新規なパスウェイの発見にも貢献できることを示すことが出来た。
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