霊長類における単一アミノ酸リピート構造の多様性とその進化動態ならびに機能的意味に関して以下の成果を得た。(1)ヒトゲノム・データベースより連続して7残基以上同一のアミノ酸が並ぶ"単一アミノ酸リピート構造"をコードしている678遺伝子を抽出した。構成するアミノ酸残基は、グルタミン酸、グルタミン、ロイシン、プロリン、アラニン、グリシン、セリン、が多数を占めていた。また、その多くは転写ならびに翻訳に係わっている遺伝子であった。進化的視点から見ると、約85%は哺乳類の系統で単一アミノ酸リピートの長さが保存され、霊長類の系統だけで保存されていたのは約10%であった。"単一アミノ酸リピート構造"の構造的特徴を抽出するべく様々な解析をおこなった結果、構造の安定性に関しての特徴が示唆された。(2)ヒトにおいてCAGトリプレットリピートによってコードされるグルタミンリピートをもち、その異常なリピート回数の拡張により脊髄小脳変性症1型を引き起こすSCA1遺伝子の産物であるAtaxin-1タンパク質の進化機能的多様性を、ヒトAtaxin-1タンパク質のグルタミンリピートを特異的に認識し結合する因子として知られているPQBP-1タンパク質との相互作用の比較から解析した。表面プラズモン共鳴法にて両者間の相互作用をin vitroで解析した結果、ヒト型PQBP-1タンパク質はヒト型Ataxin-1タンパク質のグルタミンリピートと類似した構造をもつ旧世界ザル型のAtaxin-1タンパク質は認識して結合できるものの、新世界ザル型のAtaxin-1タンパク質(モザイク型リピート構造からなる)とは結合できないことが判明した。霊長類進化とくに新世界ザル分岐後のヒト上科とオナガザル上科(旧世界ザル)の共通祖先すなわち狭鼻類が分岐する前において、Ataxin-1タンパク質の機能変異が起こったと考えられる。
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