霊長類の脳トランスクリプトームと量的、構造的な比較を実施することで、ヒト特有の脳機能に関わるトランスクリプトームを同定することで、ヒト特有の脳機能の遺伝子基盤を探求し、その進化的裏づけを取ることを研究の目標とした。予備実験において市販DNAチップを用いて霊長類間の比較脳トランスクリプトームを実施したところ転写因子群に比較的おおきなシグナル差が見られた。そこで本年度はヒトとその他霊長類の脳構造や発達発生の差異がこれらの転写因子をコードする遺伝子群の配列進化や発現変化に由来すると想定し、ヒトのジンクフィンガー遺伝子(1626遺伝子)とホメオボックス遺伝子(242遺伝子)、コントロール遺伝子(19遺伝子)の全翻訳領域をカバーするプローブを有するカスタムオリゴDNAアレイを委託合成した。それで霊長類の脳内トランスクリプトーム間の配列比較と発現量の比較を開始した。 (1)カスタムオリゴDNAアレイのプローブデータの作成; ヒトのジンクフィンガー遺伝子とホメオボックス遺伝子、コントロール遺伝子を選別し、全翻訳領域をカバーするよう61694個の60merプローブを設計しアジレント社にそのアレイを製造させた。 (2)ヒト、チンパンジー、カニクイザル、日本ザル、アフリカミドリザル、マーモセット脳からのRNA抽出と品質検定; 収集してきた霊長類の凍結保存脳の前頭前野より、RNAを抽出し、アレイ解析に適したサンプルを選別した。 (3)作製オリゴDNAアレイの品質評価; ハウスキーピング遺伝子のシグナルに対し、SAGEデータとの相関性、DNAアレイの洗浄ストリンジェンシーとの関係を比較考察することで品質評価した。 (4)霊長類前頭前野のトランスクリプトーム解析; 各霊長類脳のトランスクリプトームのシグナル強度を、遺伝子単位、もしくはプローブ単位で、ヒトのシグナル強度と比較し、ヒト脳で特異的に配列変化、もしくは発現変化を示した遺伝子を同定した。
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