ヒト19q13.43領域には霊長類特異的ジンクフィンガー遺伝子が多く存在する。ヒト領域に相同性のあるマーモセットゲノム領域のBACクローンのコンテイグを作成した。特に進化速度が速い注目領域を支援班の協力を得て、DNA配列をほぼ完了した。アフリカミドリザルの解析は、当初計画に有るFosmidライブラリーではなく、支援班に作成していただいたBACライブラリーを用いた。結果、当該ゲノム領域全体をほぼカバーするBACクローンの単離とコンテイグの作製に成功した。現在、支援班に配列解析を依頼中である。この1M全領域の一部をなすZNF586-552-587-814-417-418-256領域に着目して、解析を先行させた。NCBIの最新のゲノム情報を基にすると、ヒトZNF587、ZNF814、ZNF417、ZNF418、ZNF256は、マウスにはオルソログが確認されず、霊長類にほぼ特異的な遺伝子と考えられる。またこれらジンクフィンガ一遺伝子相互にも80%-98%の塩基配列相同性を相互に有し、近年、遺伝子重複により進化したと考えられた。ZNF814はヒトでmRNAの存在が確認されているものの、チンパンジーのと比較すると、フレームシフトを生ずるため、この遺伝子が、実際に蛋白として発現しているかは不明である。マーモセットの当該遺伝子領域は、ZNF552やZNF587は、塩基ホモロジーが50%以下になるため、オルソログは存在しないと考えられる。これら遺伝子の機能性を推察するために、ZNF587-814-417-418-256領域を含むヒトBAC遺伝子をマウス受精卵に導入し、トランスジェニックマウスを作製した。現在までこ500個の受精卵にインジェクションを実施し2ラインのトランスジェニックマウスを得た。骨格の奇形が推定されるマウスが生じたが、これがトランスジーンの挿入・破壞が原因かどうか検討中で有る。いずれにしても、当該ゲノム領域は、霊長類になってから高速に進化した領域であり、骨格や脳神経系の進化とも関係するかもしれない。従ってヒトの19q13.43の染色体領域は、ヒトを含む霊長類の進化を考える上で重要なゲノム領域だと考察された。
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