研究概要 |
今年度までに、立襟鞭毛虫の一種Monosiga avataの大量培養に成功し、国立情報学研究所・藤山秋佐夫教授および国立遺伝学研究所・小原雄治教授の両研究グループの協力のもと、M.ovataのゲノムDNA精製およびゲノムDNAクローニング(BAC, fosmid)を行い、ゲノム塩基配列決定も開始している。 RT-PCR法によってM.ovataのシグナル伝達系に関与するホスホリパーゼC、イノシトール3リン酸受容体およびリアノジン受容体遺伝子を単離し、塩基配列決定および最尤法による詳細な分子系統樹解析を行った。その結果、動物特異的と考えられていたこれら遺伝子の多様化が、立襟鞭毛虫と動物の分岐以前に既に起きていたことが明らかになった。 大阪大学微生物病研究所の岡田雅人教授の研究グループと共同で、立襟鞭毛虫(M.ovata)および海綿動物(カワカイメン)のチロシンキナーゼsrcとCSKの機能解析を進めており、立襟鞭毛虫と動物のこれら遺伝子産物の共通点や相違点が明らかになりつつある。src特異的阻害剤をM.ovataの培養液中に加えると、単独性と言われているM.ovataが集合体(群体)を形成し、近接した細胞とフィロポディア様の突起によって接着することが確認された。このM.ovataの細胞接着分子メカニズムの解明は、動物の多細胞化を分子(遺伝子)レベルで理解する上での大変重要な知見をもたらすものと期待される。 ゲノム比較を行う上で必要となる高次データベースの構築と整備を京都大学化学研究所の隈啓一客員助教授と共同で進めており、これまでに、シグナル伝達系に関与する遺伝子を中心とする「シグナル伝達系データベース」のプロトタイプを作成している。このデータベースには、ゲノム配列が決定された真核生物の遺伝子に関する情報や近隣結合法によって推定された各遺伝子の分子系統樹の情報なども掲載されている。また、大量データ処理に必要不可欠となる複数配列アライメントのソフトウェア改良等についても継続的に行っており、着実に成果を上げている。
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