研究概要 |
本研究はゲノム情報を最大限駆使して脳動脈瘤(くも膜下出血)発症に関連する遺伝子同定を目指す。くも膜下出血は致死率が高く、社会的損失の大きい疾患であり、そのほとんどは脳動脈瘤の破裂を原因とする。脳動脈瘤は高頻度に存在しており(50歳以上の3-6%)、通常無症状であるものの、破裂に伴い50%程度が死に到る重篤な疾患であり、高齢者においては寝たきりになる確率も高い。社会的要請の高い疾患なので原因究明は急務であり、ゲノムレベルでの疾患遺伝子同定が求められる。疾患遺伝子同定から脳動脈瘤発生メカニズム解明が可能となり、治療法の開発に結びつく。脳動脈瘤は比較的遺伝背景の強い疾患であり、家系収集により連鎖解析による遣伝子座特定が可能と期待できた。そこで、全国レベルで罹患同胞を収集し、ゲノム全域連鎖解析をおこなった。本研究ではさらに強い連鎖を得るべく罹患同胞対数を増やしマッピングを計画している。と同時にすでにマッピングされた、5,7,14番染色体についてSNP解析によるポジショナル・クローニングを試みる。 本年度は脳動脈瘤罹患同胞対連鎖解析によりゲノム全域でマッピングされた染色体領域からのポジショナル・クローニングをおこなった。7q11-21で最大ロッド値3.22を得たので、この領域の体系的なSNPスクリーニングを試みた。ゲノム領域からのスクリーニングでエラスチン遺伝子および隣接するLIM kinase1遺伝子領域に有意差を有するSNPを検出でき、ふたつの遺伝子にまたがる連鎖不平衡ブロックに存在していた。またゲノム領域でのウィンドウスキャン ハプロタイプ解析により、まったく同一の領域に有意差を得ることができた。エラスチンは血管弾性繊維の主要構成成分であり、当然脳動脈瘤の候補遺伝子と考えられた。領域の詳細なSNP解析により、5SNPsでP<0.001の有意差を認めた。もっとも強い有意差をELN 3'UrR(+659)SNPで認め、P=0.0000065であった。臍帯動脈から得た培養平滑筋細胞を用いた機能解析により、ELN 3'UTR(+502)A insertion多型そしてLIMK1 promoter(-187)多型の存在により、それぞれの転写産物が減少することがreal time RT-PCRで示された。すなわちこれらは機能的多型であり、脳動脈瘤発症と関与している可能性が強く示唆された。さらにハプロタイプ解析により、これらの多型はひとつのハプロタイプを形成し、もっとも有意差の強かったELN 3'UTR(+659)SNPがat-riskハプロタイプのタグとなっていることが判明した。すなわちエラスチン、LIMK1の両方の発現低下があると脳動脈瘤を発生しやすいという新規メカニズムを提唱できた。最近エラスチンはシグナル分子として平滑筋細胞へ作用し、そこにはLIM kinase1が関与することも明らかになった。それらが、相互作用しながら脳動脈瘤発生に関与しているというまったく新規メカニズムが考えられた。 14番染色体についても7番と同様の戦術を用い、Jun dimerization protein 2を感受性遺伝子として同定できている.
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