研究概要 |
ウェルシュ菌については、菌自身が分泌し病原性因子の発現を集団的に制御するVAP(virulence activating pheromone)の解析と、菌の病原性発現を刺激する宿主側因子の解析を行い、28の二成分制御系遺伝子破壊株を用いてこれら外的因子による遺伝子制御ネットワーク解析をも平行して行った。先に決定したウェルシュ菌ゲノム配列より、黄色ブドウ球菌のクオラムセンシング機構を担うagrBと相同な遺伝子が2個同定され、そのうちの1つ、CPE1561の下流にORFと定義されていなかった小さなORFが存在し、これが黄色ブドウ球菌のクオラムセンシングに関与するペプチドをコードするagrDホモログであることが判明した。早速、agrBD遺伝子の破壊株を作製したところ、毒素遺伝子の転写はみられず、毒素の産生もないことから、ウェルシュ菌の病原性発現制御に関与するものと思われた。さらに、agrBDの破壊株はVAPを分泌せず、野生株のVAPを受け取ると多数の毒素遺伝子の転写レベルでの発現が誘導された。この細胞間シグナル物質は、44アミノ酸からなるAgrDがAgrBからのプロセッシングを受けてできる低分子ペプチドであることが考えられ、現在その性状を解析中である。 A群レンサ球菌については、オートファジーにより捕獲されない変異株の分離を行うことを目標として,ランダムトランスポゾン挿入による変異株ライブラリーを作製した.スクリーニングの結果,オートファジーにより捕獲されない変異株を分離し,壁ペプチドの伸張に関わるmurD,およびN-アセチルムラミン酸とN-アセチルグルコサミンの結合に関わるMurGのプロモーター領域にトランスポゾンが挿入された変異株であることが明らかとなった.すなわち,細胞内に侵入したA群レンサ球菌は,細胞壁の構造異常により細胞障害性を発揮している可能性が示唆された.そこで,さらに細胞壁の架橋構造に関与するPenicillin binding protein(carboxy peptidase)で、GASゲノム上にPBP1a(SPs0472),1b(SPs0075),2a(SPs1756),2X(SPs0461)、SPs3a(SPs0219),SPs3b(SPs0956)およびPBP4(SPs0220)およびゲノム上でcarboxypeptidaseと予測されるSPs0129,SPs0331,について変異株の作製を試みた.PBP2a,3a,3bの3種類のPBP遺伝子破壊株では,不均一な分裂と菌体容積の異常が認められ,いずれもオートファジーによる認識が著しく阻害されていた.これらの変異株では菌の感染により誘導される細胞障害性も著しく阻害されていることから、細胞内で菌体の細胞壁の高次構造を認識してオートファジーの誘導および細胞障害性を発揮していることが明らかとなった。
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