研究概要 |
各種病院内で様々な病原性を示した黄色ブドウ球菌株のうち由来の明らかなもの(敗血症、眼炎、中耳炎、膿、尿、喀痰、皮膚、鼻腔等)941株、アトピー性皮膚炎由来株142株、健常人口腔由来株、伝染性膿痂疹およびSSSS由来株1836株を収集し、計2953株全てについてPFGE解析を施行した。その結果、以下の事が明らかとなった。 分離された株は大きく分けて2つのグループに所属した。うち一つは伝染性膿痂疹、SSSS由来株(ETA産生株およびETB産生株)および鼻腔由来株が占めた。他方のグループには院内由来株、伝染性膿痂疹、SSSS由来株(ETA産生株、ETD産生株)、アトピー性皮膚炎由来株が属した。後者の中では院内由来株、伝染性膿痂疹由来株、アトピー性皮膚炎由来株がそれぞれ明らかなクラスターを形成していた。院内感染由来株は少なくとも5つのクラスターを、伝染性膿痂疹由来株はETA遺伝子保有クラスター、ETD遺伝子保有クラスター、さちにET遺伝子を保有しない小さなクラスターが8存在した。アトピー性皮膚炎由来株は少なくとも5つのクラスターが存在した。なかでも院内由来株の中で敗血症等重症例から採取された株は院内由来株の2つのクラスターに集中していた。セラチアの系統解析:臨床分離株および環境分離株のHouse-keeping遺伝子(mdh,mtlD,aroE,icd)の配列をもとにMultilocus sequencing typing(MLST)解析および性状解析を行い、つぎの結果を得た。1)臨床分離株と環境分離株では系統が異なることが分かった。2)セラチアの特徴のひとつである赤色色素(プロディギオシン)産生株は、限られたクラスターに分類できることが分かった。3)ヒト血清感受性を調べたところ、血清による殺菌性に抵抗性が高い株が分布するクラスターがあることが分かった。4)ゲノム配列をもとに作成したマイクロアレイを用いたComparative genome hybridization(CGH)解析での系統間の相違を調べる実験は現在進行中であるが、環境中に存在する抗菌薬、消毒薬、重金属、有機溶媒などの細胞障害性異物や細胞内代謝産物の細胞外への輸送に働く排出システム群は菌株間で高度に保存されていることが分かった。これはSouthern hybridization実験の結果と一致した。5)ゲノム配列を決定したSM39株が保有する多剤耐性プラスミドの脱落株を作成し、種々の抗菌薬感受性を測定した。その感受性と臨床分離株および環境分離株の感受性の比較から、セラチアの抗菌薬自然耐性のレベルは緑膿菌よりも低いが、大腸菌などの腸内細菌よりも高いことが分かった。
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