研究概要 |
動物は記憶課題を遂行する際,回顧的方略(「さきほど見たものは何であったかを覚えている」という方略)や展望的方略(「これから何を選択すべきであるかを覚えている」という方略)など,異なる記憶方略を取り得ることが知られている.したがって,記憶に関連するニューロン活動は,動物が取る記憶方略と密接に関連する可能性がある.本研究では,前部下側頭皮質腹側部(TEav野)「顔」応答ニューロンの記憶関連活動と記憶方略との相関を調べるため,「顔」を使用した非対称的対連合課題(I-APA課題:以下に説明)をサルに訓練し,学習成立後,ニューロン活動の記録・解析を行った. 1.I-APA課題:課題で使用する視覚刺激は複数の無意味な「図形」とサルにとって既知の人物の「顔」を,5方向から撮影した画像である.サルが固視点に固視後,先行刺激(「図形」または「顔」)が呈示され一定の遅延期間の後,テスト刺激(先行刺激が「顔」の場合は「図形」,「図形」の場合は「顔」)が継時的に呈示される.サルは先行刺激と連合対をなすテスト刺激を同定することが要求される. 2.「顔」→「図形」試行と「図形」→「顔」試行:先行刺激が「顔」でありテスト刺激が「図形」である場合(「顔」→「図形」試行),先行刺激である「顔」に対して正解テスト刺激(「図形」)が一意的に決定されるため,動物は記憶方略として展望的方略を取り易いことが予想される.逆に,先行刺激が「図形」でありテスト刺激が「顔」である場合(「図形」→「顔」試行),先行刺激である「図形」に対して正解テスト刺激(「顔」)が複数存在し,一意的に決定されないため,動物は記憶方略として回顧的方略を取り易いことが予想される. 現時点でTEav野から56個の視覚関連応答を記録し,11個の特定の「顔」と「図形」の連合対に選択的なニューロン応答を記録している.これら11個の連合対選択的ニューロンのうち6個が,遅延期間中,「図形」→「顔」試行よりも「顔」→「図形」試行において優位なニューロン活動を示した.このような記憶関連活動はサルが「顔」→「図形」試行において展望的方略を取り易いことと一致し,TEav野「顔」応答ニューロンの記憶関連活動と動物の取る記憶方略が相関することを示唆する.
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