研究概要 |
われわれは、うつ病では強化学習の理論の中で非常に重要な要素である報酬予測のメカニズムに障害をきたしている可能性を推測している。すなわち、「将来の報酬への見通し」が悪い状況として、将来への悲観的認知のために長期的なメリットが見えず、短期的なコストを支払わず、じっとしていること(行動抑制)を最適行動として選択する状況、あるいは「将来への見通し」が立たないがために、短期的コストを支払わないでよい行動(自殺、衝動行為)を選択する状況が、うつ病のモデルとして想定している(Doya,2002)。 これまでわれわれは、報酬のバランス(大vs小)、報酬獲得までの時間的作業(短期vs長期)、獲得した報酬によるフィードバックおよび学習機構などの構成要素をもった脳賦活課題を、難易度や課題構成を変えて3種類作成し、健常者を対象として脳機能測定を行った。その結果を踏まえ、上記の課題を用いてうつ病患者を対象とした予備的検討を行った。 行動実験の結果を、報酬のバランスと報酬獲得までの時間によりスキャタープロットを行い解析した。健常対照群と比べてうつ病群で有意差は認めていない。症例数も少なく、データのバラツキも大きく、今後の更なる症例の集積および課題の調整も必要と考えられた。これに対してfunctional MRIによる脳機能測定に関しては、行動データに関わらず、有意な脳活動領域を認めなかった。今後は、予備的な検討結果を踏まえ、課題の調整を行い、うつ病患者の脳活動データを強化学習の理論モデルに基づいて解析し、脳の各部位がどのような時間スケールを有する報酬予測に関わるかを明らかにしたい。
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