中枢神経系における視覚伝導路には、外側膝状体から大脳皮質一次視覚野を経る"膝状体系視覚伝導路"と、上丘浅層を介する"膝状体外視覚伝導路"が存在することが知られているが、たとえば眼球のサッケード運動や視覚性注意などの認知機能の制御に後者の経路がどのように関わり得るのかは明らかでない。そこで様々なサッケード課題を訓練した後に一次視覚野を一側性に損傷したサル2頭において障害側視野に向かうサッケード運動の性質を解析した。その結果、障害側に提示された視覚刺激に対するサッケードは、訓練によって、不正確であるものの、成功率は2ヶ月程度でほぼ正常レベルにまで回復した。障害側に向かうサッケードの反応時間は、1頭のサルでは健常側よりむしろ短く、160ミリ秒程度であり、もう1頭のサルでも健常側よりは遅いが、200-250ミリ秒程度だった。注視点の消灯からターゲットの提示まで50-100ミリ秒のGAPを挿入するGAP課題では顕著にサッケード反応時間は短縮し、障害側に対しても80-100ミリ秒程度の大変短い反応時間のサッケードが観察されることが明らかになった。しかし、障害側へのサッケードでは、健常側へのサッケードの場合のようにこのような大変短い反応時間のサッケードが独立した分布のピークを作る(express saccadeと呼ばれている)を形成するのではなく、より遅めの150-200msの反応時間を示すサッケードと同じひとつの分布のピークを形成することが明らかになった。今後これらの障害側に向かう超短潜時のサッケードが健常側へ向かうexpress saccadeと同様な神経機構によって誘発されるのかどうかを、上丘からのニューロン活動記録によって明らかにしたい。
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