霊長類において大脳皮質の一次運動野に由来する皮質脊髄路線維は手指筋の運動ニューロンに直接結合し、手指の巧緻運動の制御に関与するとされている。我々はマカクサルにおいて皮質脊髄路から運動ニューロンに至る直接結合を頸髄C5髄節で側索の背側部を切断することで傷害した後、訓練によって数週間から2-3ヶ月の期間でprecision gripなどの手指の巧緻運動が回復することを見出した(Sasaki et al. 2004)。このような機能代償にはC3-C4髄節に存在する脊髄固有ニューロンを関する間接的な経路(Alstermark et al. 1999; Isa et al. 2006)が関与していると考えられる。このような機能代償の中枢神経機構を知るために大脳皮質一次運動野の手指支配領域の局所フィールド電位と手指筋の筋電図活動を記録し、皮質-手指筋コヒーレンス(cortico-muscular coherence ; CMC)と手指筋同士のコヒーレンス(musculo-muscular coherence ; MMC)が、皮質脊髄路の切断前と切断後の回復過程においてどのように変化するかを解析した。皮質脊髄路の切断前、1頭目のサルは17HzのCMCは観察されたが、MMCは観察されなかった。もう1頭のサルではいずれのコヒーレンスも観察されなかった。皮質脊髄路の切断後、1ヶ月以内にいずれのサルでも30-40HzのMMCが近位筋から遠位筋にいたる広汎な範囲で観察されはじめ、回復に従って増強した。一方でCMCは消失し、回復はみられなかった。以上の結果からMMCが機能回復の過程で増強すること、さらにその生成には運動野や運動野から運動ニューロンへの直接投射は関与していないことが示唆された。
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