研究課題
私たちの研究室は一次視覚野の損傷後、視覚的意識が喪失するのも関わらず、視覚対象への行動が可能であるという「盲視」のメカニズムを明らかに知るために、片側の一次視覚野を吸引除去したマカクザルを用いて研究を行っている。一般に、作業記憶と意識は相互に近い関係にあるとされている。作業記憶があることが意識があることの証明であるとさえ言われている。すると、視覚的意識が消失ないしは減弱している「盲視」の状態では「見えた」と意識されない視覚対象は短時間であれ、記憶できないと考えるのが自然であろう。しかし、サルが注視点を注視中に100msだけ周囲に点灯した光点の位置を2秒程度記憶しておき、注視点の消灯後、記憶していた位置に向けて眼球のサッケード運動を行うという「記憶誘導性サッケード課題」が90%以上の成功率で遂行可能であるという驚くべき結果だった。そしてさらにこの「作業記憶」を担う神経活動を探索し、中脳の上丘ニューロンがこの課題の遅延期間中に持続する高頻度の発火活動を示すことを見出した。このような活動は健常側の上丘では見出されなかった。通常、このような遅延期間中の持続発火活動は頭頂連合野や前頭葉に特異的なものであると考えられていたので、今回の結果は、一次視覚野の損傷後、上丘が新たな機能を獲得したものと考えられた。また、今回の結果から、これらの一次視覚野損傷サルは視覚的意識は消失ないしは減弱しているにもかかわらず、作業記憶のバソファーに移行可能な「意識的」経験があり、それに対応する神経活動が上丘に存在しているということが明らかになった。これらの研究成果はこれまでの意識と作業記憶の関係に関する通説に修正を迫る重要な研究である。
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