ヒトにとって「顔」という視覚情報を処理することは社会的コミュニケーションを取る上でも重要な機能である。この顔情報処理特性の発達過程を調べ、またそれをもとに小児の脳機能発達評価に役立つ研究手法を開発していくのがこの研究の目的である。 今年度はまず多数の小児を対象に誘発脳波検査を施行し、対照として必要な健常児での基礎データを得た。4歳から15歳、約150名の協力を得て実験を行い、顔特異的誘発電位が成人と同様のパターンになるまでの過程を検証できた。また、健常児にとって適切な実験環境を設定し今後発達障害児に対して応用可能な環境を検討した。今年度確立できた実験手法と、得られた基礎データを基に、今後は発達障害児を対象として同様の誘発脳波検査を施行する予定である。また心理学的行動検査を同時に実施し誘発電位の結果と合わせて研究を発展させていきたい。 また、Williams症候群(以下WMS)患児の協力を得て顔刺激に対して誘発される脳磁場を測定した。WMS患者は顔認知に関し健常と変わらないとこれまで考えられてきたが、脳内での情報処理過程に健常者と違いが見られることが最近明らかになってきている。まだ解析を進めている途中の段階ではあるが、健常者で観察される電気生理学的な倒立顔効果がWMS患者では明らかでないことが確認できた。誘発脳磁場の結果は個人差が大きいため、今年度得られたデータだけでは結論を出すことはできずさらに多くのデータを集める必要がある。また解析に時間がかかるため今年度論文として発表したものはまだWMS患者一例における報告のみであるが、今後例数を増やしまた健常対照者の誘発脳磁場検査もさらに行っていくことで、WMSにおける顔情報処理特性を明らかにしていきたい。
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