我々は、成熟ラット海馬CA1領域スライス標本においてテタヌス刺激が錐体細胞膜電位に同期的振動(afterdischarge、AD)を誘発することを発見し、これが側頭葉てんかんのモデルとなり得ることを報告してきた。このADの発現にはGABAおよびグルタミン酸伝達が必須であり、また、介在細胞から錐体細胞へのGABA作動性入力がAD発現中興奮性に転じていて介在細胞群と錐体細胞群は相互に興奮性シナプスで結合する「正のフィードバック回路」を形成して同期発火するというモデルを提唱してきた。 本研究課題では、この「正のフィードバック回路」の同期的興奮を律動的に抑制してリズム発生させるGABA作動性介在細胞群が存在するのかどうか検討した。AD発現に強く関与する多形および錐体細胞層の介在細胞の膜電位をホールセルパッチクランプ法により記録し、AD発現中の局所GABA応答を調べたところ、17例中13例はAD発現期間を通して過分極応答を示し、残りの4例もいったん弱い脱分極応答に転じたが、すぐ過分極応答に戻った。このことから、介在細胞の多くは錐体細胞と異なりAD発現中にGABAの逆転電位が顕著に上昇することはないと考えられた。一方、低Cl-内液でパッチした細胞を再び高Cl-内液で再パッチしてADにおけるCl-コンダクタンスを調べたところ、錐体細胞では高Cl-内液パッチで顕著にAD応答の振幅が増大したのに比べ、介在細胞ではAD応答の振幅に差が見られなかった。介在細胞において観察されるADはグルタミン酸による脱分極応答であると考えられるが、個々の脱分極をGABA作動性メカニズムが周期的に抑制しているのではないことが推察された。以上の結果から、ペースメーカー的介在細胞群が錐体細胞-介在細胞ネットワークを律動的に抑制して同期的な振動を引き起こしている可能性は低いと考えられた。
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