視標追跡運動の脳内機構を理解するため、今年度は前頭眼野後部領域追跡眼球運動ニューロンが、1)追跡信号をどのような座標系により再現するか、2)追跡指令信号は眼球追跡指令と頭部追跡指令の両者を備えるか、3)3次元性の追跡眼球運動信号は下流のどこで前額面と奥行き成分に分解されるかを調べた。1)頭部と体幹を固定し最適応答方向を立位と、前額面で右或いは左にスクリーンごと40度傾けて比較した。最適方向はどの条件でもほぼ同様で、眼前正面の静止視標固視時の平均発射頻度もほぼ同様であった。この結果は前頭眼野ニューロンが静的傾斜をコードせず、追跡眼球運動信号を頭部・体幹中心座標系で再現することを示す。2)報酬ジュースの飲み口を動かすことにより頭部追跡させると、追跡眼球運動ニューロンの大多数は頭部運動にも応答した。運動の開始とニューロン応答の開始を比較すると、大多数は頭部運動の開始に揃わず、飲み口の運動開始に揃った。少数の応答は頭部運動開始に揃ったがそれに遅れた。最適方向を眼球追跡と、視線運動を伴わない頭部追跡で比較すると、半数の細胞の最適方向は両者で逆になり、両者の最適方向は相関しなかった。固定した体幹に対し他動的に頭部のみを回転させると、大多数の水平追跡眼球運動ニューロンがアクティブな頭部追跡時とほぼ同様の応答を示した。以上の結果は、前頭眼野視標追跡眼球運動ニューロンの持つ信号は、眼球運動指令と頭部運動指令の両者を備えた視線運動指令ではなく、眼球運動指令と、頭部運動の結果による前庭および頚部固有受容器入力さらに体性感覚入力の加算によること、この加算が、視線運動信号を形成することを示唆する。3)前頭眼野の下流として小脳片葉領域と背側虫部Purkinje細胞の応答を調べた。いずれの領域でも3次元性の追跡眼球運動信号が再現されていたため前額面と奥行き成分への分解はさらに下流であることが示唆される。
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