研究課題
文法中枢の損傷で実際に文法に選択的な障害が生じるという、脳の構造と機能の間の最も直接的な因果関係を明らかにするため、従来の失語症検査や知能検査で正常であると診断された患者でも文法判断を適切に調べることで文法中枢の損傷に伴う文法障害(失文法)が現れると考え、左前頭葉に脳腫瘍を持つ患者を調査の対象とした。参加者(25~62歳、全員右利き)は脳腫瘍摘出手術を受ける前の患者で、本人や担当医師からは失語症や精神疾患の報告はなく、知能検査の結果(言語性IQ、非言語性IQ共に)も標準の範囲内にあった。用いた文法判断テストは、絵と日本語の文を同時に見ながら内容が合っているか否かを答える「絵と文のマッチング課題」である。また、能動文(AS)・受動文(PS)・かきまぜ文(SS)の3条件で同一の絵のセットを用いることにより、意味処理を完全に統制することができ、条件間に何らかの差が認められた場合は、その差は文型に対する文法処理が唯一の要因であると結論される。左下前頭回に脳腫瘍のある患者群は、正則文(SOV語順)のAS条件よりも非正則文であるPS条件とSS条件で有意に高い誤答率を示した。一方、左運動前野外側部に脳腫瘍のある患者群は、主語が文頭に来るAS条件とPS条件よりも目的語が文頭に来るSS条件で有意に高い誤答率を示した。また、両群とも、3条件すべてに対して健常者より有意に高い誤答率を示している。さらに、左下前頭回と左運動前野外側部以外の左前頭葉に脳腫瘍のある患者は、健常者と同等の誤答率を示した。また、各条件での誤答率は、年齢や知能指数、腫瘍の大きさと無関係であることを確認した。以上の結果は、言語の核心となる文法機能が大脳皮質の一部に局在するという説(機能局在論)を実証するもので、P・ブローカの流れを汲む重要な成果である。
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