カエル網膜のオフ持続型神経節細胞(ディミング検出器)群は、減弱光刺激や拡大する黒スポット光刺激に対して位相の揃った周期的(30-50Hz)なスパイクを発生する。網膜におけるこのような周期的スパイク発火を薬理学的に抑制したり増強したりすると、拡大する黒スポット光刺激に対するカエルの逃避行動は阻止されたり促進されることが明らかになった。ディミング検出器は、網膜内層の神経回路で発生した律動性シナプス入力を受け取ることで周期的スパイクを発生する。本年度は周期的スパイク発火の周波数に影響を与える要因を調べ、逃避行動との関連を検討した。KチャネルのサブタイプであるKv3は、聴覚系や大脳皮質の神経細胞における周期的スパイクの生成に関与していることが知られている。そこで網膜のKv3を低濃度のTEAで阻害したところ、ディミング検出器への律動性シナプス入力の周波数が低下すると共に、ディミング検出器における周期的スパイク発火の周波数が低下した。一方、TEAは他のKチャネル(Kv1.1、BK、KCNQ2/3)にも作用する可能性があるので、これらのKチャネルに対する特異的な阻害剤を網膜に投与したが、ディミング検出器における周期的スパイク発火の周波数は低下しなかった。カエル網膜におけるKv3の局在を免疫組織化学的に検索した結果、各種サブタイプのうちKv3.3が内網状層の2本の亜層に分布することが明らかになった。カエルの眼球内にTEAを投与すると、拡大する黒スポット光刺激に対する逃避行動が抑制された。律動性シナプス入力が形成される網膜内神経機構、及び、位相の揃った周期的スパイク発火がデコードされる中枢神経機構については引きつづき検討中である。
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