研究概要 |
プロ棋士は盤面を前にしたときに、莫大な数の手筋の中から直観的によさそうなものを選び出し、その後、頭の中の盤面を使って一手一手駒を進めながらその善し悪しを判断すると言われている。このように人による推論は、読みを生む「無自覚的な探索」、その読みを確認する「自覚的な多段心的操作」、そして多段の心的操作の「結果の評価」に分けることができると考えられる。本研究では、上記のそれぞれの機能について、関連する脳部位をfMRI計測により特定することを目的とした。 具体的には、四則演算による探索課題を用いて、自覚的に行った四則演算をすべて報告させる。このことにより、統制課題である演算課題との反応時間の差から、無自覚的な探索および自覚的な心的操作の負荷を割り出すことができる。これをfMRI解析に反映させることにより、それぞれの機能に関する脳部位を特定する。課題としては次の3つを採用した。 演算課題:演算課題では5つの数字と演算子が呈示され、被験者はその指示に従って計算を繰り返し行う。上段の初期値に、中段で一つずつ呈示される演算子に従って演算を行っていき、下段と一致するかどうか答える。引き算と掛け算しか出題されず、常に自然数になるように問題を設計している。 保持・計算補助つき探索課題:被験者の入力に従って計算の途中経過が画面に表示される。被験者は、電卓を利用する要領で、計算の途中経過の記憶や計算の実行をコンピュータに任せることができる。行う課題は探索課題と同様である。 保持・計算補助つき演算課題:被験者の入力に従って、被験者の入力に合わせて、計算の途中経過が画面に表示される。行う課題は演算課題と同様である。 無自覚的な探索に要する時間をから推定し、それに応じて脳部位を特定した。左前頭のaPFC(BA10)、DLPFC(BA46/9)にその活動が見られた。一方、逐次的・意識的な計算に要する時間に比例して活動する部位は、左前頭のaPFC(BA10)、pre-SMA(BA6)、右前頭のDLPFC(BA46,BA9)、頭頂(BA7)であることがわかった。
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