研究代表者は前頭葉における行動セット表象機構について、機能的MRIを用いて検討してきた。課題指示から課題実行までの遅延期間における前頭極部と後方前頭前野の活動相関を解析し、この相関がこれから行おうとしている課題のルールに依存して変化することを明らかにした。しかしこの行動ルール特異的な領域間機能連関が実際に行動に影響を与えているのか、またこの行動ルールの表象がどのようなメカニズムを通して実際の行動に適用されるのかは明らかではない。この点を明らかにするために、平成17年度当該領域の研究費に基づいてさらなる機能的MRI研究を行った。 正常人被験者を対象として単語の音韻、意味分析課題を用いた。機能的MRIによる脳活動計測の結果、遅延期間中の前頭極部と後方前頭領域の活動の相関がこれから音韻分析あるいは意味分析を行おうとしているかによって変化することがわかった。さらに前頭極部の遅延期間中のセット活動が、課題実行の反応時間と負の相関を持ち、課題遂行時の前頭葉後方領域(音韻処理では6野、意味処理では47野)活動と負の相関を持つことが明らかになった。 この結果は、前頭葉極部が実際に課題遂行に関与する領域と相互作用することによって課題特異的な行動を可能としていること、そしてこの領域選択的な作用が実際の課題遂行にあたって必要とされる神経処理機構をあらかじめセットアップする働きがあることを示唆する。
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