研究課題
動物の神経系の重要な機能の一つは感覚として入力された情報を変換し運動として出力することにある。しかし、私たちがある運動を実行すると、純粋な外界の情報とともに、自らの運動の結果、受動的に起こる感覚情報が絶えず入力される。動物は、自らの動きによって生じる感覚に惑わされることなく純粋な外界の情報のもとに運動を制御することができる。本研究では、自らの眼球運動の結果として起きた視覚刺激の動きでは眼球運動が誘発されないことに注目し、運動制御のためには純粋な外界の情報が選択され、自らの運動の結果、受動的に起こる感覚情報は選択されない、という選択の神経機構を明らかにする。まず、サルが追跡眼球運動中にMT、MST野のニューロン活動を記録し、視覚刺激に対する反応の性質を調べた。MT野とMST野のニューロンでは性質が異なり、MTニューロンは視覚刺激の網膜上の動きに対応した反応を示すのに対して、MSTニューロンはサルが眼を動かしているいないに関わらず、視覚刺激のスクリーン上の動きに対応した反応を示すことが明らかになった。次に、追跡眼球運動によって起こる背景の動きが視覚刺激の動きに対する感受性に変化を起こすかどうかヒトを被験者とし、CRT上に視標とランダムドット像を提示して調べた。被験者が視標を注視している間にランダムドットを4秒間、10°/秒で動かした後、動いているランダムドット像を消し、同時に視標を10°/秒で動かした。被験者は追跡眼球運動で動く視標を追跡した。静止したランダムドット像を4秒間提示した後、視標を10°/秒動かし、追跡させた場合と比較して、ランダムドットを動かした場合、追跡眼球運動開始部に速度低下が見られた。自らの眼球運動の結果として起きた視覚入力では眼球運動が誘発されない現象には、このような先行する動く視覚刺激による視覚系の順応現象も関与している可能性があることが示唆された。
すべて 2006 2005
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