サルが追跡眼球運動中にMT、MST野のニューロン活動を記録し、視覚刺激に対する反応の性質を調べたところ、MT野とMST野のニューロンでは性質が異なり、MT野のニューロンは視覚刺激の網膜上の動きに対応した反応を示すのに対して、MST野のニューロンはサルが眼を動かしているいないに関わらず、視覚刺激のスクリーン上の動きに対応した反応を示すことが明らかになった。この結果はMSTニューロンが眼球運動の情報を用いてMTニューロンから得られた網膜上での視覚刺激の動きの情報を補正し、外界の動きをコードしていることによると考えられる。そこで、MSTニューロンで見られる眼球運動の補正が、視覚刺激の動く方向、追跡眼球運動の方向によって影響されるかどうかを調べた。まず、サルが静止した固視点を注視している間にランダムドット像を上下左右斜めの8方向に動かし、それぞれのニューロンの視覚刺激の動きに対する方向選択性を調べ、適方向を同定した。次に、(1)サルが静止した視標を固視している場合、(2)サルが20度/秒で、適方向と直角方向に動く視標を追跡している場合、の2つの場面での視覚刺激の動きに対する方向選択性を調べた。MTニューロンは網膜上で同じ動きをする視覚刺激に対してよく似た方向選択性を示すのに対して、MSTニューロンはスクリーン上で同じ動きをする視覚刺激に対してよく似た方向選択性を示すことが明らかになった。この結果は、MTニューロンの方向選択性が網膜座標系に依存するのに対して、MSTニューロンの方向選択性は空間座標系に依存し、MST野ニューロンで見られる眼球運動の補正は、視覚刺激の動く方向、追跡眼球運動の方向によって影響を受けず、あらゆる方向に有効であることを示している。
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