研究概要 |
認識・意識・感情・思考・運動企図などといった脳の高次機能は大脳皮質を中心とした神経回路により実現されていると考えられるが、これらの高次機能を可能にしている作動原理は未だに明らかにされていない。こうした大脳皮質の作動原理を理解する際に最も欠けている要素は局所神経回路網の構成についての情報である。局所回路の理解についてはゴルジ染色法の時代以来、大きな進歩が見られていないと行っても過言ではく、大脳皮質の局所回路を解明するには、従来のゴルジ染色法を超える手法を使ってニューロンという構成要素の連絡のレベルで個々に調べる必要がある。我々は大脳皮質の局所回路を解析する手段として、「From one to group」の研究方針を立て以下の研究を行った。 (1) 「GAD67/GFP knock-in mouseを用いて、蛍光顕微鏡下に生きたまま観察できるGABA作動性ニューロンをホールセルクランプにより細胞内染色する。」:アダルト動物でのホールセルクランプでの問題を、Sodium-freeの溶液でスライス作成によりほぼ解決し、論文として報告した。現在この技術を用いて、逆行性標識法との組み合わせにより、皮質GABA作動性インターニューロンから皮質脊髄投射ニューロンへの入力を解析している。 (2) 「dendritic membrane-targeted GFP transgenic mouse」: lentivirusでは遺伝子がchromosomeに組み込まれ、感染細胞にとってトランスジェニック動物と同じ状況になることから、トランスジェニック動物での遺伝子発現・タンパク質局在に関して良いモデルとして使えると考え、lentivirusを用いて8種類のtagged GFPを試みた。その結果、ニューロンの樹上突起をGolgi染色様に標識できるtagged GFP ([myristoylation/palmitoylation site of Fyn]-[GFP]-[LDL receptor C-terminus]; myrGFP-LDLRCT)を開発できた。Thy1 promoterとGAD67 promoter下にこのtagged GFPを発現するtransgenic mouseを作製してGFPのdendritic membrane targetingに成功したので論文として発表した。現在、より発現特異性の高いparvalbumin promoterあるいはVGluT3 promoterを用いたBAC transgenic mouseを作成中である。 (3) 「Pseudorabies virus等」:大脳皮質の投射ニューロンをGolgi染色様に逆行性標識することをめざして、1) pesudorabies virus, 2) rabies virus glycoprotein (RVG)でpseudotypeにしたSindbis virus,あるいは3) RVG-pseudotyped lentivirus等の開発を行なっている。さらに、myrGFP-LDLRCT adenovirusを用いた逆行性標識の試み(高塩濃度下に注入)も行なって一定の成功を得ており、1個の錐体ニューロンから皮質視床投射ニューロンへの局所入力を解析している。また、tagged GFPの発現量を高めるためにTet-off systemの強力promoterを組み込んだadenovirusも開発している。
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