研究概要 |
本研究の目的は,大脳皮質-大脳基底核系を介して実現するアクション機能と認知機能に果たす情動,特に動機づけの神経情報処理メカニズムを明らかにすることである。木村の研究室での神経生理学研究によって大脳皮質-大脳基底核系のしくみを調べる研究が中心であるが,「統合脳」的アプローチを重視して,強化学習理論を中心とする計算論研究者との共同研究によって脳の回路・機能を反映する計算モデルを構築したり,臨床神経科学者との共同研究によって動物実験での成果をヒトの脳機能とその障害の理解に至る統合的な研究を目指している。本年度は,1)ドーパミン細胞による複数ステップ行動の価値の割り当てと,報酬の予測誤差情報の表現,2)価値判断,意志決定や行動選択のための線条体細胞の活動,3)線条体細胞の活動特性に基づく強化学習モデルの検証と,ドーパミン信号の関与,4)ヒトと実験動物のドーパミン系の障害に起因する行動・認知機能異常の神経細胞機能,形態,分子メカニズムの検証,に関する研究を推進した。このうち2)について,線条体の神経細胞が過去の履歴や現在の文脈に基づいて報酬や嫌悪などの予測と判断に関わることを明らかにした(発表論文2)。更に4)についても,レンズ核線条体梗塞,アレキサンダー病の病態生理,胎生時のビスフェノールの大脳皮質構築に及ぼす効果について成果を得て発表した(論文1,3-6)。木村は,ドーパミン細胞の機能に関する総説を発表した(論文7)。
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