本計画研究課題は、以下の3点にわたって大きな実績を挙げることができた。1. 線条体ニューロンによる行動選択肢の価値の表現:木村と上田は、計算論的神経科学の研究者である銅谷賢治(ATR)、鮫島和行(玉川大学)と共同研究を行い、「線条体の投射ニューロンが、ドーパミンによる報酬予測の誤差信号に基づいて、行動選択肢の報酬価値を表現する」という仮説を、サルを対象とする神経生理学実験研究と計算理論によって検証した。更に、線条体のニューロンの示す報酬価値の情報が行動選択肢に連合して表現されることを明らかにした。2. 視床線条体系の機能:南本、堀と木村は、高い価値の選択肢も可能である状況でありながら、低い価値の選択肢が要求された時には、大脳皮質の奥深くにある視床正中中心(CM)核の半数以上のニューロンが特異的に活性化されることを、サルを対象とする神経生理学によって発見した。次の機会に最善の選択肢を選ぶために、次善の策を講じるという知的な講堂の基盤となることを示唆する。3. 中脳ドーパミン系の機能:ドーパミンニューロンが、報酬の期待やその誤差信号を担うことが知られている。しかし、遠くの目標を達成するために本当に有用になるのは、達成するために将来試みる可能性のある複数ステップの行動の各々について、得られると期待される報酬がどれだけ高いか、低いかに関する情報と、その報酬価値の期待値の誤差情報である。木村、榎本、松本、春野らは、この点を明らかにするための実験・計算論パラダイムを考案し、サルのドーパミンニューロンの活動を調べたところ、半数以上のニューロンが長期的な報酬価値とその誤差を表現することを発見した。この信号は、複数ステップの行動を試行錯誤で試しながら軌道修正しつつ、最終的に最も望ましい(高い価値の)結果を得ること(ゴール)につなげる上で必須の役割を担うと考えられる。
|