霊長類の最大の特徴は、手指を用いた繊細な操作運動であり、このような繊細な操作的運動を行うためには、目標操作対象固有の情報を運動中に感知し、その感覚情報に基づいて運動を計画・遂行する必要がある。つまり手指の繊細な操作的運動の際には、高度な感覚と運動の連関が行われており、この感覚運動変換においては、大脳皮質及び脊髄が最終出力に近い中枢として、重要な役割を果たしていると考えられている。では手指の運動によって生じる同一の末梢感覚入力を、異なった特徴を持つ2つの中枢はどのように処理し、それぞれの中枢での計算結果をどのように連関させて手指の繊細な運動出力を制御しているのであろうか?本研究においては、霊長類が繊細な手指運動を行う際、感覚情報変換が大脳皮質または脊髄による集中制御によって行われているのか、または両者による分散階層制御によるのかを実験的に明らかにする事を目的とした。特に当該年度は、脊髄の介在ニューロンがprecision gripの制御にどのように関わっているかを探ることを目的とした。そのため、ニホンザルに、キュー信号及び遅延時間の後、precision gripを行わせた。当該課題の訓練終了後、1)頭部固定用パイプを頭がい骨に固定、2)脊髄介在ニューロン活動記録用のチェインバーを頚椎に装着、3)筋活動記録用の電極を手指の筋に装着、するための手術をそれぞれ行った。そして、上記課題をサルに遂行させている最中に脊髄ニューロン活動及び筋活動を記録した。その結果、記録されたニューロンの75%程度において、過大に関連した活動性の変化が確認された。それらのうち多数は興奮性の活動変化であり、また一部には運動開始前から活動変化をしめす「遅延時間依存性活動」を示すニューロンも存在した。さらに、活動性の変化を示したニューロンの一部は筋への単シナプス性出力を持つことを示唆する結果がspike triggered averagingから示された。これらの結果は脊髄の介在ニューロンがprecision gripの制御に重要な役割を持つことを示唆していた。現在は、2頭目のサルにおいて上記結果の追試実験を行うと同時に、大脳皮質活動を記録して脊髄と皮質ニューロンの機能的差異について検討している。
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