本研究では下側頭葉皮質およびその関連脳部位が視覚的物体認識長期記憶にどのように寄与するか解明すること目指している。平成19年度の主な研究成果は以下の通りである。 物体のカテゴリーに関する私達の内的表現は階層的に構造化されていて、この階層構造は柔軟な行動を助けている。また私達は瞬時に容易に物体をカテゴリー区分する能力を持っているように思われる。しかし、これらの物体カテゴリー化能力のメカニズムについては分かっていない。最近のいくつかの研究は、物体カテゴリーは前頭前野外側部や海馬皮質などの多モダリティー性の脳領域に表現されていることを示唆している。我々はサルの下側頭葉皮質から多くの(600個以上)神経細胞の活動を記録し、それぞれの細胞の多くの(1000個以上)の物体像に対する反応を記録することによって、下側頭葉皮質の細胞集団が物体カテゴリーを表す可能性を調べた。ふたつの物体像が下側頭葉皮質細胞集団に引き起こす細胞活動のパターンの類似度は、ふたつの物体像が属するカテゴリーの距離に相関した。多次元尺度解析法あるいはクラスター解析法で1084個の物体像の関係を解析すると、動物物体のカテゴリーに関する構造が再現された。このカテゴリー構造の再現は下側頭葉皮質細胞集団の反応に特異的で、物体像の物理的類似度、第一次視覚野細胞モデルの出力、個々の物体像に同調させた下側頭葉皮質細胞モデルの出力からはカテゴリー構造を再現することができなかった。これらの事実は、動物物体のカテゴリーが下側頭葉皮質細胞集団の活動パターンにより表現されていること、また下側頭葉皮質は物体のカテゴリー化を含めたいくつかの機能のために特別に発達していることを示唆する。
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