本研究では下側頭葉皮質およびその関連脳部位が視覚的物体認識長期記憶にどのように寄与するか解明することを目指している。平成20年度の主な研究成果は以下の通りである。 先行研究により、下側頭葉皮質の細胞は新奇な図形に対してより強く反応することが示されている。見慣れた刺激に対する反応は小さくなる。しかし、我々は物体を見慣れると、より弁別しやすくなる。反応が小さくなるのに弁別しやすくなるのは、一見矛盾している。この矛盾を解決するため、見慣れた刺激群の中での選択性と、新奇な刺激群の中での選択性を比較した。具体的には、80個の物体像を4群に分け、2第一群の刺激に対してはサルにGO反応を行わせて正答に報酬を与え(NOGO反応-報酬あり)、第二群の刺激にはNOGO反応-報酬あり、第三群にはGO反応-報酬なし、第四群にはNOGO反応-報酬なしを対応させた。数ヶ月の訓練により、サルが刺激物体像とGO/NOGO反応および報酬あり/なしの対応を学習した後、下側頭葉皮質からの細胞活動記録を開始した。固定した80個の刺激物体像に加えて、日ごとに変わる8個の刺激物体像を加えた。ひとつひとつの細胞の反応を固定刺激群と日ごとに変わる新奇刺激群の間で比較したところ、最大反応の大きさはほとんど同じであった。しかし、固定刺激群では最小反応がずっと小さく、刺激選択性が大きかった。刺激像を見慣れると平均的には反応の大きさが減少するが、刺激間の選択性が大きくなることで弁別能力が大きくなるものと考えられる。
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