末梢神経が損傷されると、残存神経の感度上昇や神経因性疼痛などが生ずる。我々は前肢掌側の支配神経を切断すると、前肢掌側振動刺激に対する体性感覚野応答は減弱するが、前肢背側の支配神経を介する応答が数時間以内に増強することを経頭蓋フラビン蛋白蛍光イメージングを用いて見いだした。さらに末梢神経における活動電位の伝導を阻害しても増強が生ずること、神経を切断しても切断部位の中枢端に0.1Hz程度の電気刺激を加え続けると増強が生じないこと、振動に応ずる末梢Aβ線維の約半数に実際に0.1Hzかそれ以下の極低頻度の自発発火が存在することを突き止めた。振動に応ずるAβ線維以外では自発発火が観察されなかった。これらの結果は、振動に応ずるAβ線維切断によってその極低頻度の自発発火が中枢に伝わらなくなることが増強を誘発することを示している。さらに振動に応ずるAβ線維を発するMeissner小体に栄養因子の一種のGDNFと受容体が局在すること、さらに皮下にGDNFに対するsiRNA、GDNFに対する中和抗体、GDNF受容体に対する中和抗体を投与すると自発発火を阻害することを見いだした。以上から、振動に応ずるAβ線維の極低頻度自発発火はMeissner小体に局在するGDNFの作用によって生ずると思われる。末梢神経を切断した場合、断端にGDNFを作用させると増強がブロックされること、このGDNFの作用がTTXによって阻害されることも、我々の仮説を裏付けている。我々は前肢掌側支配神経切断後1-2週のマウスにおいてvon Freyテストを行ったところ、機械的刺激に対する前肢の回避行動の閾値が低下していること、GDNFに対するsiRNA投与でも同様に閾値の低下が生ずることを見いだした。この結果は、体性感覚野応答の代償的増強は神経因性疼痛の始まりでもあることを示している。
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