本研究は、小脳の登上線維とプルキンエ細胞のシナプスをモデルとして、発達脳における不要なシナプス結合の除去と有用な結合の強化固定化の機構解明を目指している。成熟動物では小脳プルキンエ細胞は1本の登上線維によって支配されるが、発達初期には3〜5本の登上線維の支配を受けている。発達につれて過剰な登上線維が「除去」され、残存すべき1本の登上線維が「強化」されて、マウスでは生後約20日で成熟型の1対1の結合が完成する。平成17年度には種々の遺伝子改変マウスを用いて、(1)高閾値型のP/Q型カルシウムチャネルが、生後10日までの過剰な登上線維シナプス除去(前期シナプス除去過程)に必要であること、(2)一方、GABA作動性の抑制性シナプスの活動が生後10日から16日の間の除去(後期シナプス除去過程)に必要であり、これはこの時期のプルキンエ細胞に特有の巨大微小抑制性シナプス後電流の発生に起因する可能性が高いこと、(3)代謝型グルタミン酸受容体1型(mGluR1)の活動が後期シナプス除去過程に必須であること、を明らかにした。また、一度正常に発達を遂げた成熟動物の小脳において、プルキンエ細胞のAMPA型グルタミン酸受容体を持続的に遮断すると、登上線維が退縮し、シナプス前終末からの伝達物資放出機能が弱まることを発見した。即ち、成熟動物の登上線維の維持にAMPA型グルタミン酸受容体を介するプルキンエ細胞の活動が必要であり、何らかの逆行性シグナルが関与することが示唆された。また、平成17年度に神経活動に関係する機能分子のうち、P/Q型カルシウムチャネルをプルキンエ細胞特異的に欠損する遺伝子改変マウスの作成に成功した。平成18年度にこのマウスの電気生理学的および形態学的解析を行い、前期登上線維シナプス除去がプルキンエ細胞のP/Q型カルシウムチャネルに依存するかどうかを明らかにする。
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