研究概要 |
本研究は,脊椎動物の後脳分節にしたがって配置され同じ形態学的特徴をもった網様体脊髄路(RS)ニューロン群に着目し,運動制御に果たす役割を理解することを目的とする.逃避運動中のゼブラフィッシュ稚魚からRSニューロン群のカルシウムイメージングを行い,異なる感覚入力は異なるRSニューロンを動員して逃避運動を誘発することを見出し,分節構造の機能的意義を示唆した.すなわち,聴覚刺激ではマウスナー(M)細胞が発火し(Mauthner escape),触覚刺激ではM細胞は発火せず(non Mauthner escape)M細胞と形態学的に相同なRSニューロン(MiD3cm)が活動して,逃避運動が発現する.聴覚の獲得過程を調べるために,発達初期のM細胞からホールセル記録を行ったところ,音刺激に反応する前にすでに,耳胞の有毛細胞からM細胞までの聴神経の投射があることを見出した.また,M細胞の興奮性を左右するグリシン作動性入力の発達に関しては,抗体を用いてグリシン受容体クラスターの形成を調べ,受精後5日後には約500個のシナプスが形成されていることを見出した.グリシン受容体βサブユニットを欠損する個体ではクラスターは少なく,βサブユニットが受容体凝集に必須であるという知見と一致した.神経回路形成において神経軸索のガイド分子として知られるセマフォリンについては,細胞内シグナル伝達の解析をモデル動物に線虫を用いて行った.線虫プレキシンPLX-1は膜貫通型セマフォリンSema1ファミリーのSMP-1/2と相互作用して蛋白質翻訳を亢進することと,セマフォリンシグナルはアクチン脱重合因子コフィリンのmRNA翻訳を選択的に促進し,細胞形態を変化させることを見出した.
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