幼若ラットでは、においと電撃を対提示条件付けにより、においの嫌悪学習が成立する。Postnatal day(PND)-11のラットにcitralのにおいを嗅がせながら痛み刺激である電撃を負荷すると、翌日のにおい嗜好性テストではラットは中性濃度のcitralのにおいを嫌い避けるようになる。この学習成立には、体性感覚刺激による遠心性ノルアドレナリン線維の活性化が不可欠であることから、今回、主嗅球における可塑性へのノルアドレナリンの関与について詳細な検討を行った。 行動学的的には、PND-11のラットににおいと電撃の対提示トレーニングを施す際、嗅球にtimololを注入すると、濃度依存性に学習成立が阻害された。phentolamineの注入は全く学習成立に影響を及ぼさなかった。 また電気生理学的には、PND-11のラットの嗅球からスライス標本を調製し、フィールド電位を記録した。外側嗅索を電気刺激し逆行性に僧帽細胞を興奮させ、樹状突起間シナプス伝達によって誘導されるfEPSPを顆粒細胞層で記録した。100Hz×5回のテタヌス刺激により顆粒細胞層のfEPSP slopeに長期増強現象(LTP)を誘導することができた。しかしノルアドレナリンを灌流液に加えると、閾値下の100Hz×3回の刺激でもLTPの誘導が可能で、これは対提示された体性感覚刺激による嗅球への遠心性ノルアドレナリン線維の活性化がにおいの学習成立を導くというメカニズムを裏付ける結果である。このLTPはtimololの添加で抑制されるが、phentolamineは全く影響を及ぼさなかった。 以上よりいずれの手法によっても嗅球内ノルアドレナリンβ受容体が可塑性に関わる、という相関した結果が得られた。しかしながら、学習の内容の決定にはノルアドレナリン以外の因子あるいは嗅球以外の部位が関与することが強く示唆された。
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