マウス発生期大脳皮質における多極性移動細胞がいかなる細胞外シグナルを受容し、その挙動が制御されているのかを明らかにするため、これらの細胞に発現し分泌シグナルを有する蛋白質(膜貫通蛋白質または分泌蛋白質。以下略してS/TMと記す)を同定することを目指した。そのため、まずは多極性移動細胞を多く含む部位をマウス大脳皮質から実体顕微鏡下でほぼ正確に切り出す手法を確立し、シグナルシークエンストラップ法(SST)によるS/TMの検索を行った。これまでに103クローンを得て、うち96クローンのin situ hybridizationを終えた。また、SSTと並行して、HiCEP法を使った検索も行った。すなわち、子宮内マウス胎児脳への電気穿孔法による遺伝子導入で緑色蛍光蛋白質(GFP)発現プラスミドを脳室面に導入し、多極性細胞が多くラベルされる時期、及び、その前段階として脳室帯細胞が多くラベルされる時期を検討した。次に、各々の時期に該当部位を切り出し、セルソーターで蛍光ラベルされた細胞をそれぞれ濃縮した。それらからRNAを抽出し、HiCEP法を用いて両者のトランスクリプトームを比較することにより、多極性細胞を多く含む画分に強く発現するピークを検索した。その結果、「多極性細胞画分」で5倍以上高いピークを示すクローン273個を同定した。HiCEPデータベースで各ピークを予測して得た2960遺伝子のうち、S/TMに絞って、計271のうち249遺伝子のin situ hybridizationを終えた。以上の結果、多極性細胞が多く局在する脳室下帯に発現する遺伝子を13個同定することができた。その内、受容体型膜蛋白質が5個、分泌蛋白質が1個であった。これらいずれの分子も、軸索ガイダンスに関わると推定されるものであった。以上の結果から、多極性移動細胞は、脳室下帯において軸索ガイダンスに深く関わっている可能性が考えられた。
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