研究課題
記憶・学習に深く関与している海馬のCA3領域は特徴的な反回性回路を有している。この反回性回路の同期発火は、ネットワークオシレーション、記憶形成、癲癇発作に関与していると考えられている。海馬CA3領域のN-methyl-D-aspartate (NMDA)受容体は、反回性回路を形成する交連・連合線維シナプスに強く発現し、苔状線維シナプスには弱い発現しか認められない。そこで、NMDA受容体を海馬CA3領域特異的に欠損したマウスを作成し、海馬CA3領域の反回性回路の活動を解析した。興味深いことに、低濃度のカイニン酸を投与すると、野生型マウスには影響を与えなかったが、海馬CA3領域特異的NMDA受容体欠損マウスでは痙攣発作が誘発された。さらに、神経活動をウレタン麻酔下で直接記録したところ、海馬CA3領域特異的NMDA受容体欠損マウスで大きな特徴的なelectroencephalogram (EEG) spikesを観察した。一方、野生型マウスではこの特徴的なEEG spikeはまったく観察されなかった。EEG spikeを電流源密度解析すると、海馬CA3野および海馬CA1野の錐体細胞層に電流の吸い込みが認められたが、歯状回では電流の吸い込みは観察されなかった。さらに海馬CA3領域にガラス電極を挿入し、個々の神経細胞の発火活動を記録したところ、この特徴的なEEG spikeの出現に合致してmultiple unit activityの頻度が大きく高まっていることを見出した。したがって、NMDA受容体を欠損させた海馬CA3領域では、神経細胞の同期発火頻度が高まることにより特徴的な大きなEEG spikeが生じたと推定される。すなわち、海馬CA3領域のNMDA受容体は、神経細胞の発火頻度を抑制することにより反回性回路の興奮性を負に調節している可能性が示唆された。
すべて 2007 2006
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