本研究は、情動制御に重要な脳部位のうち、扁桃体神経核特異的に遺伝子操作を可能とするC57BL/6近交系の遺伝的背景を持ったマウス系統を樹立することを目的としている。C57BL/6系統マウスは、近交系として行動学的データーの蓄積があり学習能力に優れていること、新潟大脳研の崎村教授らにより樹立された生殖伝達効率の高い胚性幹(ES)細胞が存在すること、ゲノム情報が利用できるとともにゲノム遺伝子断片をバクテリア人工染色体(BAC)に組み込んだライブラリーが利用可能であること、などの利点がある。本年度は、扁桃体外側核ならびに内側核にそれぞれ選択性の高い発現を示すGastrin-releasing Peptide(GRP)ならびにLIM homeodomain protein 7/8のゲノム遺伝子に薬剤活性誘導型の遺伝子組換え酵素CrePR遺伝子を挿入したマウス系統、ならびにCre活性依存的にNMDA受容体のドミナントネガティブ体を発現するマウス系統の作成を進めた。従来の方法による標的遺伝子組み換えベクター(TV)の構築では、制限酵素を用いたゲノム遺伝子断片のクローニングや精製ステップが複数回必要であり、労力と時間を要した。一方、近年BACと相同遺伝子組換え酵素を用いて、大腸菌内でBACを遺伝子操作する方法が開発されてきた。我々は、その方法の一つであるCounter-selection BAC modification kit(GENE BRIDGES社)の薬剤耐性マーカーの改変、なちびに最終的にゲノム断片をクローニングするTVの配列を改変することにより、約1ヶ月でTVを作成する方法を確立した。これらの改変によりTV作成が容易になり、様々なTV作成に利用できるとともに、BACを用いた系統的な遺伝子操作が可能になった。現在作成したTVをES細胞に遺伝子導入し、標的遺伝子組み換えES細胞の取得を進めている。このうち、GRP-CrePRについては、相同組み換えESクローン候補を得た。
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