脳内において複雑な神経回路網を形成する神経細胞は、高度に極性化された細胞のひとつである。本研究では、神経細胞の極性形成を制御する分子機構を明らかにすることを目的とする。我々はCRMP-2が神経細胞の軸索伸長や極性形成に重要な役割を果たすことを明らかにしてきた。昨年度までに、CRMP-2がチューブリンヘテロ2量体と複合体を形成して微小管重合を促進し、軸索伸長を促進することを見出した。GSK-3βによりCRMP-2がリン酸化されるとチューブリンとの結合能が低下しCRMP-2が不活性化されることも見出した。また、CRMP-2がKinesin-1の軽鎖と結合しチューブリンやSra-1などの積み荷の軸索への輸送を制御することも明らかにした。最近、我々はCRNP-2がSlp1と結合することを見出した。Slp1はRab27と結合し小胞輸送に関与することが示唆されている。我々はCRMP-2がSlp1/Rab27Bと複合体を形成することを明らかにした。Slp1は神経突起先端の成長円錐で小胞様の局在を示し、神経成長因子の受容体であるTrkBと共局在した。TrkBはSlp1/Rab27Bと複合体を形成することが示唆された。また、Slp1結合分子を免疫沈降法にて探索し、Kinesin-1のサブユニットKIF5とKLCが同定した。この結合はCRNP-2を介している可能性が示唆された。TrkBの動きをタイムラプス法で確認すると、突起先端に向かう順行性の動きと細胞体に戻る逆行性の動きが非協調的に見られた。CRMP-2やSlp1、Kinesin-1の軽鎖の発現を抑制すると、軸索遠位方向に輸送されるTrkB小胞の数は減少した。以上より、極性形成を制御するCRMP-2は様々な分子と相互作用し、積み荷受容体として細胞内輸送を制御している事が明らかとなった。
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