神経細胞同士が正常な機能を有する神経回路を形成するためには、軸索の正しい標的への投射だけでなく樹状突起が空間的に適切なパターンに展開されることが必要である。一般的に、ひとつの神経細胞に由来する樹状突起は互いに交差することなく分岐・伸長して受容領域を埋める。また、あるグループに属する神経細胞は、それぞれの細胞が他の細胞の領域に侵入することなく樹状突起を展開し、受容野全体を完全に被覆する。このような均一で重複のない受容野の被覆は、神経ネットワークが入力情報を曖昧なく処理することを保障するものと考えられる。これまでに、樹状突起間に働く抑制的な相互作用によって突起同士が交差することなく受容野を覆うことが知られている。しかしながら、この樹状突起の交差忌避を制御する細胞内および分子的メカニズムについては多くが未解明のままである。 ショウジョウバエのFlamingo(Fmi)は進化的に保存された7回膜貫通カドヘリンであり、上皮の平面内細胞極性の調節に必要である他、神経細胞では軸索の伸長や樹状突起の形態を制御している。fmi変異体では樹状突起の全体の形態に著しい異常は無いものの、同一の神経細胞由来の突起が野生型に比べ有意に高い頻度で交差する表現型が見られた。fmi変異体において神経細胞に特異的なレスキュー実験を試みたところ、突起の交差頻度は野生型と同程度まで回復した。このことからFmiは神経細胞で自律的に機能し、樹状突起の交差忌避を制御していることが示された。樹状突起の交差忌避におけるFmiの作用機序をさらに詳細に明らかにするため、私達はyeast two-hybrid法によって下流因子の探索を行い、その候補を同定した。この研究で私達は、Fmiとその下流因子を含む新規のシグナル伝達経路によって、樹状突起の交差忌避が調節されていることを明らかにした。
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