ある種の神経細胞は方向性をもった樹状突起伸長を示し、特定の方向へ偏った樹状突起パターンはその神経細胞の生理的機能を特徴づけている。しかし、軸索ガイダンスの制御機構が精力的に研究されてきたのに対して、樹状突起の伸長方向を制御するメカニズムはまだ不明な点が多い。我々はショウジョウバエのdendritic arborization neuron(da neuron)を材料に、樹状突起のパターン形成機構を研究している。da neuronに属する一つのサブクラスは、胚の背腹軸(D-V軸)および前後軸(A-P軸)に沿って突起を伸長させ、クシ状の樹状突起パターンを発達させる。遺伝学的スクリーニングで分離された複数の突然変異体のうち、crossveinless-c(cv-c)/RhoGAP88C変異体ではA-P軸に沿った突起形成に異常が見られた。Cv-cはRho GTPase activating protein(RhoGAP)ドメインを持つ分子であり、RhoファミリーGTPaseを介して細胞骨格を制御する機能を持つと考えられる。また、Cv-cのほ乳類ホモログであるDLC1(deleted in liver cancer 1)は、細胞接着や細胞移動を制御するがん抑制遺伝子の産物として知られている。我々は、Cv-cのRhoGAP活性が方向性をもった樹状突起の伸長に必要であり、Cv-cは細胞自律的に働くことを示した。また、生化学的解析からCv-cはRho1とCdc42に対してGAP活性を示すことを明らかにした。さらに、遺伝学的手法を用いて、生体内において、Cv-cはRho1の活性を負に調節することによりA-P軸に沿った突起伸長を制御していることを示した。以上のように、本研究ではがん抑制遺伝子DLC1ファミリーに属するCv-cの神経細胞における機能を初めて明らかにした。
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