1.mGluR1 conditional knockout (cKO)マウスの解析 ドキシサイクリン投与によりmGluR1発現を停止できるmGluR1 cKOマウスでは小脳プルキンエ細胞特異的にmGluR1が発現し、mGluR1(-/-)マウスで見られた小脳失調・登上線維によるプルキンエ細胞の多重支配がレスキューされていた。さらに、生後24日(P24)からmGluR1の発現を停止させたところ、P61-P65で運動協調能がドキシサイクリン非投与のコントロールマウスに比べ顕著に悪化した。この結果は、mGluR1が神経回路形成過程に必要なだけではなく、成体のプルキンエ細胞シナプスでも重要な機能分子として働いていることを示唆している。 2.mGluR1結合タンパク質の同定 mGluR1の相互作用分子の網羅的探索を試みた。まず、mGluR1(-/-)マウスを実験対照として、野生型マウス小脳からモノクローナル抗体を用いてアフィニティー精製したmGluR1複合体のLC-MS/MS分析を行った結果、既知の分子を含む100種以上の構成因子を同定することができた。また、プルキンエ細胞特異的にmGluR1スプライスバリアントのmGluR1aまたはmGluR1bを発現するトランスジェニックマウスの小脳より、それぞれの複合体を単離し、MALDl-TOF MS分析によって構成因子を同定し、mGluR1aとmGluR1bとの間で異なる数種類の相互作用分子を同定することができた。 3.前脳特異的Rac1欠損マウスの解析 前脳特異的Rac1欠損マウスでは大脳皮質の一部に層構造の乱れが観察された。また、逆行性標識トレーサーを用いて神経連絡を調べたところ、大脳皮質から脊髄および視床への投射には大きな異常が見られない一方、大脳皮質の左右を連絡する神経線維である脳梁および前交連が著しく欠損していることが明らかとなった。
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