研究概要 |
1、大脳皮質の領野特異的に発現する遺伝子の探索と機能解析 霊長類の大脳皮質領野間で顕著な発現差を示す遺伝子の数は、極めて限られているが、我々は、Differential Display法、RLCS(restriction landmar cDNA scanning)法により、領野間で顕著な差を示す遺伝子を8個余り同定し、その発現様式と生理的意義の解析を行っている。本年度は、そのうち、視覚野特異的発現遺伝子について、論文公表と学会報告を行った。occ1遺伝子は、我々が領野特異的発現遺伝子として2001年に始めて報告したものであるが、活動依存的な発現を示す。霊長類(マカカ、マーモセット)と他の哺乳類の大脳皮質に於けるocc1の発現を調べ、その視覚野特異特異的発現が、霊長類にのみ観察され,他の哺乳類の大脳皮質では見られない事を本年報告した。また,occ1の活動依存的発現に関しても、マウスの感覚遮蔽では、霊長類視覚野に於けるTTXによる単眼遮蔽のような顕著な低下は観察されなかった(Takahata et al., Cerberal Cortex 2006)。一方、皮質下に於けるocc1の発現は、マウスとマカカ属で良く似ている(Takahata et al., 2006北米神経科学大会)。これらの結果は、occ1の霊長類視覚野に於ける顕著な発現が霊長類の脳の進化への過程で獲得されたものである可能性を示唆する。 2、視聴覚弁別課題下に於ける感覚複合による反応促進に関与する脳領域の同定 音と光を同時に呈示されたラットでの反応速度が、各刺激単独の場合の反応速度に対して、有意に促進される現象(感覚複合による反応速度の促進)の脳内過程を最初期遺伝子の一つであるc-Fosを用いて解析した。今回、c-Fosを用いた遺伝子発現の解析を同一座標で比較できる客観的定量的画像化法を開発し、感覚複合刺激の反応促進に特異的に関与すると考えられる2次視覚野外側部(V2L)を同定した。更に、その部位に興奮性神経を特異的に抑制するGABA受容体アゴニスト(ムシモール)を注入することによって、その役割を行動学的にも検証した(Hirokawa et al., 2006年北米神経科学大会)。
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